一時期、家で炊飯するのにキャンプ道具で試してみるっていうのにハマっていました。炊飯って微妙な火加減が要求されるので、クッカーとか火器の特製を見極めるのに丁度良かったんです。
なお先に説明しておきますと、自宅では風もなく気温も低くないため火力は安定します。屋外だと風や周囲の気温から火力は割り引いて考えないといけない場合が多く、炊飯ではそれは顕著に影響します。家で美味く炊けたから屋外でも同じように炊けるか?というのはちょっと違うんですけどね。
炊飯の基本
炊飯はβデンプン状態である生米に熱を加えて、αデンプン化して人間が消化吸収しやすい飯に変換する作業である。このαデンプン化には水分量30%以上で100度、20分以上の加熱が必要であると言われている。なので炊飯に向いている火器とクッカーは全体的に熱の周りがよく、ムラなく加熱出来て火力調整がしやすいものが向いています。
まずはしっかりと米に水を吸わせる
まず米に吸水をしっかりさせるのは必須です。30分以上は放置して米に水を吸わせないと、米の中心までデンプンのα化が進まずに「芯が硬いご飯」になります。これは米の中心部がα化せずにβデンプン状態のままになってしまうということですね。出来れば1時間は放置出来るといいので、キャンプ場では最初に米を水に漬ける作業をした方がよいでしょうね。なお長く放置しすぎても問題ないです。
家庭の炊飯器では高熱を維持しやすいので、少々水を吸わせて無くても炊き上がります。しかし、火力が弱くクッカーの熱伝導率が悪いキャンプでの炊飯では、浸水はしっかりしないと高確率で失敗します。
水加減の許容範囲は広いです
水を媒体に米を加熱するので、水が少ないと全体的に熱が回りません。ただ、水が多すぎるとおかゆのような状態になってしまい食感が悪くなります。また水が少ないと炊飯の前半で米が動かずに、全体的にムラのある過熱状態になります。水が多いと食感は悪くなりますが、栄養状態としては問題ありません。最悪、多すぎると感じた時点で水を捨ててもなんとかなります。
水加減は過熱する時間で水分を飛ばしたり、多すぎたら捨てたりと調整で出来るのでそんなにナーバスになる必要はありません。ただし、火器の火力が弱い場合には水が多すぎると美味く炊けなかったりします。この辺は火力のコントロールのしやすい火器だと融通が利きますね。
吹きこぼれに注意しつつ過熱する
炊飯は基本的に鍋に蓋をして行う物です。これは熱が伝わりにくい上面の米にもしっかり熱を加えるには、蓋などで鍋の内部の温度を維持しないといけないからです。特に熱伝導率の悪いキャンプ用のチタンクッカーでは、底の方ばかりに熱が加わって上部の米が生煮えのままだったりということが発生します。
じゃ、蓋をすればいいじゃん!っていう話になるのでしょうが、蓋をすると鍋の中の温度が上がるために煮汁が粉化して吹きこぼれが発生します。特に水分が多い炊飯の序盤に高火力で過熱していると蓋をしていると絶対に吹きこぼれます。この吹きこぼれを押さえるほどしっかりと蓋が出来るようなクッカーは少ないです。
なもんで、吹きこぼれを防ぐには大きなクッカーを使うのが一番です。例えば水位の半分ぐらいの高さまでしかこない大型のクッカーで炊飯すると、最初から蓋をしていても吹きこぼれは発生しません。ただ、実際にはギリギリの大きさのクッカーで荷物を軽量化したいですよね。
という訳で自分は小さめのクッカーで炊飯するときは「前半は蓋をせずに強めに加熱して、水が減ってきたら蓋をする」というテクニックを使っています。蓋をしなければよほどの高火力で炊飯しない限り吹きこぼれは発生しません。蓋をすると水蒸気の働きで全体に均一に熱が入るようになりますので、後半になってから蓋をしても十分間に合うのです。
加熱ですが火器が火力調整しやすい場合には前半強め、沸騰したらちょっと弱火にして水分が減ってきたら蓋をして放置。周囲や表面に水が見えなくなってきたら加熱終了です。あまり長々と火に掛けたままにしていると、熱伝導率の悪いクッカーなどでは底が焦げますので注意。過熱は次の蒸らし行程でも続くので、早めに火から下ろしても炊飯は成功します。
加熱時間は火器にも寄りますが、ガスだと10~15分前後、固形燃料やアルコールバーナーだと20分ぐらいですかね。屋外だと寒い時期はもっと掛かるかも。なお標高の高いところはもっと低い温度で沸騰してしまうので加熱が難しいです。標高の高いところでの炊飯は、前半蓋を取って後半だけ蓋という作戦は通用しなくなります。最初から蓋をしたまま加熱できるように大きさに余裕があり、熱伝導率の高いクッカーが必要になると思います。
蒸らしについて
炊き上がった後に蒸らすという作業は、炊飯においては余熱で火を通すという行為です。蓋をして鍋の中の温度を高いままに維持しておく必要があります。デンプンのα化には一定の時間が必要で、そのために一定時間放置するのが蒸らしという工程です。
なので、蓋がないクッカーでは炊飯は難しいです。炊飯時の工程でも蓋は必要になりますが、どうしてもない場合にはアルミ箔等で覆うだけでも随分違います。なお屋外では寒い時期などはあっという間に鍋の温度が下がってしまうので、蒸らすときにタオル等でクッカー全体を包んで温度を維持するようにしてください。アウトドア用のタオルの中では熱に弱い化学繊維のものもあるので、熱に強い安物の麺のタオルが一つあると便利です。
蒸らしは最低でも10分は必要です。この間はあまり蓋を開けて様子を見たりしないことがポイントです。既に火から下ろしているので、蓋を取ってしまうと鍋の中の温度が一気に下がってしまいます。ここは仕上がりを信じて蓋は開けずに一定時間放置です。
固形燃料とチタンクッカーの組み合わせ
100円ショップなどで買える固形燃料と熱伝導率が高くて炊飯向きなアルミクッカーの組み合わせはお手軽かつ、炊飯を失敗しにくい組み合わせです。トランギアのアルミ製のメスティンなんか固形燃料と組み合わせの相性とか最高ですね。
アルミは熱伝導率が高く、鍋全体が過熱されていくので全体的に熱むら無く過熱する必要がある炊飯に非常に向いています。逆に言うと熱伝導率が低く、火が当たる場所だけに熱が入るチタンクッカーは炊飯にはむいていません。
アルミクッカーと火力調整が自由自在なガスストーブなら炊飯が一番簡単ですが、固形燃料は燃焼の仕方が炊飯に向いています。大体20分過熱するのですが、序盤が高火力で段々火力が落ちていきます。これが炊飯時に要求される火加減とおんなじなんですよね。
なお固形燃料はダイソーだと上の写真の3個入りが100円で買えます。ダイソー製は底にアルミホイルの受けがあり、燃焼後にゴトクが汚れないのでオススメです。沢山使って自宅から持っていくのであれば、Amazonで購入した方が同等品をお安く入手出来ます。
自分はヴァーゴのアルコールランプのゴトクを固形燃料の燃焼台に使ってます。固形燃料はこの手のゴトクが安価かつ軽量なものが多いので、装備を減らすのに非常に有効です。
チタンクッカーで炊飯をするときにはバーナーパッドを挟むと火の当たる範囲が広がるので、鍋の底全体が過熱されるようになって、熱伝導率の悪さをカバー出来ます。アルミクッカーならば不要ですが、チタンクッカーの場合には、これが一枚あるだけで結構違います。
ウチの場合、これを載せないとゴトクの上に小さなクッカーを載せたときに安定しないんですよね…。
前に紹介したTOAKSの550mlのポットで1合の米を炊飯してみました。炊き上がりは鍋ギリギリの容量になります。加熱中は蓋をしていると絶対に吹きこぼれる水位になるので、序盤蓋なし、後半蓋ありで炊飯してみました。
固形燃料はアルコールバーナーよりも熱量が高く、序盤は高火力で徐々に火力が下がっていくので火力調整をあまりしなくて炊飯が出来る便利な火器です。チタンクッカーとの組み合わせでの何とか炊飯が出来ました。
表面のアップ。蒸らした後なので水分が綺麗に飛んでいます。チタンクッカーでの炊飯はバーナーパッドと蓋をするタイミングを見極めると、ギリギリのサイズでも何とか炊飯できます。
ただ、出来上がりは…やはりアルミクッカーの方が綺麗にふっくらと炊けますね。まぁ、屋外で食べるなら上の仕上がりでも十分ですが、家で食べるなら「もうちょっとふっくらと炊きたい」という欲が出ます。
火力調整の難しいアルコールストーブとアルミクッカーで炊飯する
火力調整が自由自在なガスストーブ、炊飯向きの火力特製のある固形燃料に比べると、火力調整が難しいアルコールストーブは炊飯にはあまり向いていない火器です。なので、その不利をカバーするためにチタンではなくアルミのクッカーで炊飯してみましょう。
ヴァーゴのアルコールストーブ。途中でアルコールの継ぎ足しが出来ない上に火力調整が出来ません。燃焼が安定してからは燃料のアルコールが無くなり始めるまでは一定の火力で燃え続けます。
ガスや固形燃料と同じくクッカーに煤などが付かない上に、ストーブ本体が軽量なのでこれも荷物の軽量化が可能です。ただ、トータルでは固形燃料の方が火力もあるので有利ですね。なお、どちらも屋外で使う時には風防は必須と思ってください。
モンベルのアルミの四角いクッカーで炊飯してみます。ここではやや大きめのサイズのクッカーに蓋をして加熱してます。蓋が浮きあがらないように上に重しをします。
ただ、これでも途中でやっぱり吹きこぼれが出ました。アルミは熱伝導率が良いので後から蓋をしても十分に熱が回ります。吹きこぼれてきたら蓋をすぐにとって、様子見したほうがいいですね。
この水位と火力なら吹きこぼれしない!という量を身につけると炊飯も楽なんですが、火力調整が出来ないアルコールストーブの場合、焦がさないようにチェックしていないといけません。途中でアルコールが切れると加熱が途切れて炊飯に失敗するのも注意が必要ですね。
固形燃料だと燃え尽きるまでの時間が1合のご飯炊きにピッタリなので、放置して炊飯が可能です。アルコールも入れる量をちゃんと計量しておくと放置しての炊飯が可能かも?
でも流石にアルミ製のクッカーは優秀です。しっかりと熱が入ってふっくらと美味しいご飯が炊き上がりました。これなら炊飯器で炊くのとあまり変わりませんね。
炊飯に関してはアルミクッカーの利点は大きいですので、ご飯を必ず炊くと言う人はアルミクッカーを装備しておくほうがいいでしょう。モンベルの角形のアルミクッカーはオススメですよ。
ジェットボイルで炊飯する
さて、最後は専用の鍋を使う湯沸かしに特化したジェットボイルでの炊飯です。これはZIPというソロ用の小型軽量なモデルですが、クッカーはアルミ製です。
ガス+アルミという組み合わせなら炊飯とか得意だろう、と思われるかと思うのですが、湯沸かしに特化した熱伝導の特製のせいか、どうも炊飯がうまくいかないという人が多いです。
まずジェットボイルの標準の蓋は炊飯には不向きです。縦型で吹きこぼれやすい構造のため、自分はチタン製の皿を蓋代わりにしてます。最新のジェットボイルはとろ火が出来る様になりましたが、この写真のような古いモデルだと弱火にすると火が消えてしまうんですよね。
熱効率が高いこともあって、ガスながらあまり自由に火力を下げれないというのが炊飯を難しくしてます。なので、やはり序盤は蓋なしで炊飯して、水が減ってきたら蓋をするという作戦で炊飯してみます。
炊き上がりました。見た目的にはちゃんと炊けたようです。蒸らしはしっかりやりましょう。ジェットボイルはクッカーの回りにネオプレン製のカバーがあるので温度維持がしやすいのがいいですね。ただ、吹きこぼれるとのこカバーが汚れるので、あまり吹きこぼれしないように炊飯したいです。
ジェットボイルのクッカーは底が深いので、炊飯後にご飯を掻き出したりするのが面倒ですし、後で綺麗に洗うのが面倒くさいというのも炊飯に不向きな理由でしょう。付属のゴトクを使って別のクッカーを使って炊飯したほうがいいんじゃないか?と思います。
上から見ると綺麗に炊けていたように見えたお米ですが、底の方が焦げてました。やはりとろ火が難しいというのが炊飯にジェットボイルが不向きな理由ですが、いざという時は炊飯も出来ますよという例でした。味はやはり普通のアルミクッカーで炊飯した方がふっくらと美味しく炊けました。
何度か試したらもっと美味く炊けるようになるとは思うんですが、ジェットボイルの炊飯は後片付けが面倒なので積極的にやることはないですね。荷物を減らすなら嵩張るジェットボイルを持っていく事は無いですから、実用性としてはイマイチかな~。
炊飯は経験値だ!
炊飯ですが、もっと簡単にやるなら水をとても多めにして米を煮るように炊飯して、最後に水を捨てて蒸らすだけでも炊けます。炊飯のロジックが分かっていれば、なんか上手くいっていないな、という時に手を打つことでリカバリーが可能です。
水分が多いなら途中で捨てればいいですし、足りないならお湯を足しましょう。なお水を足すと温度が下がって熱が維持しにくくなるので可能なら限りお湯を足しましょう。もし蒸らしても芯があるようだったら、食感は少し諦めてお湯足して再加熱して、再度蒸らすとかいう事も出来ます。要はもっと熱を入れれば芯は消えるんです。
蒸らした後からは出来ないリカバリーですが、序盤の加熱に失敗したなぁという場合には箸などでグリグリと混ぜると芯がない仕上がりになりますが、表面が荒れて食感は悪くなります。この辺も何事も炊飯のタブーを恐れずに色々と試してみることが重要です。
炊飯器を使うと失敗はしないので、リカバリーするという経験値を積むことはないと思います。なので鍋での炊飯を実践してもし失敗しても、その理由を分析していくと炊飯は上達します。まずは白米の炊飯をキャンプ道具を使って家で試してみるのは楽しいですよ。